カサンドラ編

 
 
 荒野に響く鐘の音の中を、一台のバイクが唸りをあげて走っていました。
 

 それはチャペルの鐘でした。
 廃墟となった教会、二人だけで式を挙げる若者。

 若者を見つめながら、マミヤはヘルメット脱ぐと「…ケン…」と恋の片道切符なのでした。



 一方ケンシロウはレイに連れられ、グランドキャニオンを散歩していました。
 どこへ連れていく気だ、と聞きましたが、レイが教えてくれないので諦めました。

 「マミヤがお前を追って村を出た!」突然レイがしゃべり始めました。

 「マミヤが…」呟くケンシロウですが、感情を表さないので何を考えているのか
 分かりません。本格的に子守りがいないな、なんて思っているのかもしれません。

 「だが情に任せてお前を追いかけるような女ではない」
 レイがニセトキの正体を突き止めたことで、マミヤはリアルトキの居場所を探しに
 行ったそうです。まあ追いかけたところで邪魔者扱いされますしね。

 「ある町で落ち合うことになっている。無事ならそこで待っているはずだ…」
 
 そんなわけでレイはマミヤと落ち合うことになっている村に向かっているのでした。

 行先を保留しておいたのはマミヤの想いを効果的に伝えるためのラブテクニック
 だったようです。恐るべし南斗恋の駆け引き。

 「無事なら」とさりげなく乱世を匂わせるところも北斗の拳ならではです。


 「熱い女だ!」恋のキューピッドレイ。
  
 「……」  

 さて、ケンシロウは何を考えているやら…
 本格的に子守りがいないな、なんて思っているのかもしれません。


 
 「お幸せに」
 マミヤは静かに微笑むと、そっと教会を後にしました。

 ところがため息をつきながら顔を上げたところ、悪いのがいっぱいいました。

 どうやら単なる野モヒカンではなく、トキの居場所を探られるのが嫌な人たち
 のようです。

 「バカな女だ。こんなところに寄り道せねば追いつかれなかったものを…」
 リーダー格のヒゲが葉巻をくゆらせてにじり寄って来ました。

 マミヤも得意のメット投げを繰り出しましたが、見事にスタンドに持っていかれました。
 両腕を掴まれ、関節を決められるマミヤ。マミヤが保護要員になってしまい残念です。
 
 あと1センチひねればぶち折れるぞー!やっちまえー!それっ!「はろは!」


 例の如く部下の爆発と共に主人公が現れました。

 「フッ…哀れな連中だ。俺たちの待ち合わせ場所に現れるとは…」
 どうやらマミヤは道草食っていたわけじゃなかったようです。

 「貴様まさかケンシロウか!」

 「……そうだ…」広報活動の甲斐あって知名度が大分上がって来ました。

 死神と遭遇してしまったヒゲは大慌て。マミヤを盾に、
 「よっ!寄るな!寄るとこいつを殺すぞ!」とメンタルに迫ります。

 「殺してみろ!次の瞬間貴様も死んでいる!」
 無駄でした。ケンシロウの場合本当に見捨てかねないから怖い。

 ヒゲは主人公のくせにありえねえよ!強がりだと汗を流しますが、
 「トキはカサンドラというところに囚われている、こいつらはそこの処刑部隊よ!」
 とマミヤは用件を伝え、「用は済んだわ、殺しなさい」と男らしく覚悟を決めました。

 「もうあなたもおしまいね!」喉元に刃物を突き付けられているのに挑発するマミヤ。
 貴女はどれほどの修羅場をくぐって来たというのか…。

 幸いヒゲはナイーブだったのでどうしたらいいかオロオロ、その隙にケンシロウは
 伝承者eyesでザコを下がらせ、ヒゲのこめかみに指を突っ込みました。

 「うわああ殺さないで殺さないでぇ!」とヒゲが心を開くので、ケンシロウもたまには
 殺しをやめようと数時間寝かせるから、起きたら頭にアポを取っておけと命じますが、
 ヒゲが「バ…バカめ、貴様ごときであのお方のところまで辿り着けるものか!ヒヒッ!
 殺されるのが楽しみだ!」と土壇場でヘタレなりに意地を見せたのでケンシロウは
 「これも伝えておけ。この世に俺より強い奴はいない!」グルン!とヒゲを眠らせま
 した。この後出てこないし、最後に余計なことを言ったので多分死んでます。

 
 窮地を救ってくれたヒーロー、ケンシロウはマミヤに手を差し伸べます。
 マミヤは完全にホの字でケンシロウの手を取りました。

 
 チェンジ!

 
 せめて礼くらい言ってもいいようなもんですが、あくまでもマミヤには気を持たせない
 モードで迫るようです。単に興味がないだけかもしれません。

 しかしここまであからさまに拒絶されて、さすがのマミヤも治まりがつきません。

 「ちょっとどういうことだよ!」とケンシロウをなじりましたが、
 
 「これは俺自身の問題だ!」と意味のわからない答えではぐらかされてしまいました。
 そこは「俺はホモだ!ユリアはニューハーフだ!」と答えるのが本当の優しさという
 ものです。



 
 野盗に名前を呼んでもらえず、俺より強い奴はいない!とほざかれてもじっと耐えてい
 たレイはこんな顔して見守っていましたが、




 だからどうだ?俺と…

 ごく自然な流れでマミヤの肩パットに手をかけました。

 「分かってるわ…ただ…少しでもあの人の苦しみをすくい取ってあげたい」



 
 そしてマミヤはケンシロウの後を追いかけていった…


 やはり牙一族編でやったことが原因か…(風呂のぞきと服剥ぎ取り)

 こうなるとレイに残された手段はただ一つ。


 
 
 「その報われぬ愛の為に…」
 それは報われぬレイが奏でる哀しい音色でした。


 
 さて、ラブの次はキルです。ケンシロウ一行はカサンドラを目指し、険しい崖を上って
 いました。
 
 「マミヤまだなのか…」とレイが弱音を吐き始めたところで、ようやく頂上が見えて
 来ました。



 “カサンドラ” またの名を鬼の哭く街


 鬼の哭き声のような音が聞こえてきます。
 一度収容されたが最期、二度と生きて門をくぐることが出来ない死封の監獄。
 かつて鬼、悪魔とそしられた凶悪犯達が哭いて出獄を乞うた街、それがカサンドラ!

 マミヤ会心の解説にしばしカサンドラを見下ろす三人。
 
 すぐ突撃するにはこの絶景が惜しいので、レイは世間話をすることにしました。
 
 「トキとはどういう男なんだ…」

 「本来なら彼が伝承者になるはずだった…」


 
 ―心技体、どれを取っても非の打ちどころなく、あのジャギさえも認めていた…
 
 だがあの時…
 


 世界が崩壊した日。
 
 トキ、ケンシロウはユリアと共にシェルターへ走りました。
 ところがシェルターはぎっしりで定員はあと二人。

 誰か一人が犠牲になる、そんな過酷な状況にもかかわらず、トキはとっさにケンシロウと
 ユリアをシェルターに突き飛ばし、外から扉を閉めました。
 
 慌てて扉を開けようとするケンシロウですが、ここで開けると中の全員が道連れになって
 しまうので涙を飲んで堪えました。

 2週間後、そこには死の灰を浴びた瀕死のトキがいました…



 「そしてトキは伝承者への道を断念した…」

 先が永くないことを悟ったトキは、それまで人の命を助けて生きることを決意し、
 ケンシロウと別れたようです。



 
 
 伝承者「二人だけでいちゃいちゃしようぜ!」



 「俺も会いたくなった…その男に!」
 伝承者の過去を知らないレイが微笑んでいる頃、カサンドラでは脱獄未遂事件が
 起こっていました。

 カサンドラのボス、獄長は自分に挑戦した勇気ある脱走者に喜びます。
 
 「お前に最高の名誉を与えよう、私のブーツに口づけをするのだ…そして死ぬがよい!」

 こんなことを言われて怒らない奴はいません。
 脱獄男は逆に靴を舐めさせようと飛び蹴りを放ちました。後は言うまでもありません。

 不落のカサンドラ伝説、それはこの獄長の伝説でもあるのでした。 
 
 そこへトキが笑いましたという幼い愛娘のような報告を部下が持って来ました。
 
 何事にも無反応だったトキが…
 どうやら獄長の伝説に挑戦する者の到来を予感しているようです。


 
 「虫ケラどもお!三か月ぶりに獄長様が陽の光をお恵みくださる!外に出ろーっ!」

 カサンドラの一日が始まりました。
 本日は気分がいいので陽の光を授けてくれるようです。

 「フ…来たか…」
 トキは獄中で座禅を組んでいましたが、ケンシロウ達を北斗センサーでキャッチしました。

 
 
 
 
 「獄長ー!アミバを倒したケンシロウと他二名がこちらに向かっています!」
 本物のトキがいるだけあって、アミバは本名で呼ばれていました。
 あそこまで役に入り込んでいたアミバが哀れです。
  



 
 
 カサンドラの先鋒はライガとフウガの二人のようです。

 
 

 小細工ゼロで正門まで直進して来た一行ですが、
 (こんな真正面から向かって大丈夫なのかしら、ケンは一体何を考えて…)
 とマミヤは不安顔。間違いなく何も考えていません。無敵ですから。


  
 「人の気配がしないけど、ホントにトキいるのかしら」とマミヤは扉に近づきましたが…
 

 
 レイのソフトセクハラのおかげで門番がライガとフウガであることに気付きました。

 
 「フッフフ…俺達がいなけりゃ死んでいたな」いやらしく恩に着せるレイ。こんなとこ
 一人じゃ来ないだろ。

 
 獄長のところにいたのに何故か銅像のコスプレをする変わった双子ライガ、フウガ。
 正々堂々としたタイプのようで、自己紹介してからレイに襲いかかりました。

 同じ血、筋肉、感性を持つ者のみが習得可能な二神風雷拳でまずは先制しました。


 さて、


 

















 


















 フッ、俺の手を煩わせるまでもないということか。

 


 

 「道を開けぬと死ぬぞ」本日もケンシロウ劇場の始まりです。
 
 ライガとフウガは切れ味鋭い糸で、敵を挟んで切り刻む技を使うようです。

 「ケン気をつけろ!奴らの間に挟まれたら終わりだ!」
 仲間にすら他二名の扱いを受けても、腐らずに全力でケンシロウのフォローに回ります。
 彼には強いだけじゃダメだということを教えられた気がします。
 
 そしてケンシロウは全力でライガとフウガの間に立ち、レイの立ち位置を消し去ること
 に腐心するのでした。

 当然の如くライガとフウガの糸は切られ、二人はレイが付けられたのと同じ傷を顔に
 付けられてしまいました。間違いなくレイの為じゃありません。

 「終わりだ!」ケンシロウに凄まれ、覚悟を決めた双子でしたが、何故かケンシロウが
 とどめを刺そうとしません。面倒なのでレイにやらせる気でしょうか。
 
 というわけではなく、双子の目が哀しみに満ちているからひでぶらなかったそうです。
 
 (たったこれだけの戦いで俺達を見切るとは…)
 
 「フッ、大方人質でも取られて衛士に成り下がったのだろう」レイに精神的ダメージは
 ないようです。

 
 真意を見抜いたケンシロウに敬意を表したライガとフウガ。
 「あんたならカサンドラ伝説を破るかも知れん!」とケンシロウに賭けることにして、
 正門をぶち破りました。

 二人の期待に応えるべく、ケンシロウは
 「この門は開けておけ!もはや二度と閉ざされることはない!」と凶悪犯収容所の設定も
 ぶち破るのでした。


 さあ、獄長が囚人の神輿に乗って現れました。レスラーパンツにマントのナイスガイです。

 「よくぞ鬼の哭く街カサンドラに足を踏み入れた!その無謀なる勇気だけは褒めてやろう」

 「俺に無謀という言葉はない」

 ちなみにこの回レイはずっとニヤニヤしてます。吹っ切れたようです。

 
 ケンシロウの発言にニヤリとする獄長。ケンシロウの不遜な態度は恐怖を味わったこと
 がない為だと心理分析をします。

 獄長レッスンその1.恐怖を教えよう

 実験材料として連れてこられたのは、なんとライガとフウガの弟ミツ!
 名前も顔も全然似ていません。まさか三番目だからミツなんでしょうか。

 双子が裏切った以上、人質ミツは実験体として使われることになってしまいました。

 獄長はペットの鷹にミツを襲わせ、苦しませます。 
 ミツが感じる死の恐怖、ライガとフウガが感じる弟の死という恐怖、獄長はそれが
 見たくてウキウキしておりました。

 ところがライガとフウガの覚悟は決まっていました。カサンドラに光を取り戻すべく、
 ミツには人柱になってもらうことにしたのです。

 「先に地獄で待っていろ!俺たちも直に行く!」やっぱりミツもワルなんでしょうか。

 兄たちの想いに応えるべく、ミツも覚悟を決めました。 

 「あんたは哀しむことはない!」
 「俺達が勝手にあんたに賭けたんだ!」

 ライガとフウガはケンシロウに気を使わせないように気を使いましたが、当のケンシ
 ロウは最初からそのつもりだ!と言わんばかりに見に回っていました。あんたなら
 簡単に助け出せるでしょ…。

 鷹がミツの心臓を一突きにしようとしたその時、獄長は気が変わって処刑を中止しました。
 覚悟の決まった男を殺すのは面白くないので、敵の希望を打ち砕いてからにするそうです。

 

 カサンドラの伝説VSカサンドラの希望が始まりました。

 獄長の獲物はダブル鞭。獄長とお呼び!とケンシロウをひっぱたきます。

 
 レイ「(鞭のスピードは人間の眼では見切れない。しかも奴は相当の達人!)」
 要するにレイには見えていません。

 「どうだ恐怖の味はハハハー!!」獄長の鞭捌きに防戦一方、かとおもいきや、シバかれ
 ている隙に二つの鞭の先を結んでおきました。

 「それが貴様の恐怖か…今度はお前に本当の恐怖を味わわせてやろう!」
 得意満面のケンシロウですが、ダメージを受けているのは大分シバかれたケンシロウの方
 なのでした。

 
 パフォーマンスとしては効果的な鞭結びに、ギャラリーは一気にケンシロウ一色に染ま
 りました。
 しかしライガとフウガは、ウイグルの力はこんなものではない…と心配顔です。

 案の定ウイグル獄長は余裕綽々で、顎を撫で始めました。
 
 これは引き抜いたヒゲの本数で処刑される囚人を決める恐ろしい儀式なのでした。
 伊達に生やしているわけではないヒゲ、なかなか粋な男です。

 5本抜けたので5号獄舎の囚人が引きずられてきました。
 石の断頭台にセットされる囚人たち。
 この戦いに囚人たちの命まで賭けようというのです。

 「この男に賭けたのは俺たちだ!」
 「俺達が代わろう!」
 漢・ライガ、フウガは申し出ますが、


  

  覚悟の決まった者は獄長の嗜好に合わないのです。これにはレイも怒り心頭。
 なお、言うまでもないことですが、ケンシロウは黙って見てました。

 断頭台の横にはかつて獄長に挑んだ者の、巻き添えのヒゲ儀式で処刑された囚人たちの
 墓が並んでいました。

 「この墓標が増えることがカサンドラの伝説を生むのだ!すでにお前の墓も用意して
 ある。安心して討ちとられい!ファッハハハハ!」

 この挑発に対し、ケンシロウも奥義を炸裂させます。
 「その墓は大きめに作ってあるのか?」

 突然の北斗問答に言葉を詰まらせる獄長。とりあえず「大きめじゃありません」と答え
 ておきました。

 「では出来るだけ小さく畳んでやろう」

 ケンシロウ的には会心の挑発になるはずでしたが、獄長は素直な性格だったので意味が
 分かりませんでした。

 「まだわからんのか!その墓に入るのはお前だ!」ネタの解説をしなければならないとは
 ケンシロウもまだまだですね。


 さあ第二ラウンドが始まりました。

 獄長は気合を入れてヘルメットの角を掴み、出て来たのは再び鞭、しかし今回は1,2,3…
 優に20本はあります。

 ケンシロウもこの驚異の収納術に敬意を表して結ぶことを諦めます。
 そもそもなぜ結んだのだ…

 
 さあ獄長のムチムチ攻撃!
 ケンシロウは避けようともせず…


 
 
 身動き取れなくなってしまいました。これは鞭を引きちぎって相手の武器をダメにする
 作戦でしょうか。

 「ワハハハ!口ほどにもない!」あっさりケンシロウを捕縛出来て獄長はご機嫌です。

 「カサンドラ獄長ウイグルの真の姿を見るがいい!」獄長は気合を入れると、肩筋が増量
 しました。まるで転龍呼吸法(ケンシロウがセミヌードになるやつ)のようです。

 獄長はごつい肩筋でケンシロウに突っ込んで来ました。これは食らったらやばそうです。
 身動きの取れないケンシロウはどう対処するのか…!

 
 「カハァ!」ブチッブチッ
 普通に食らって吹っ飛びました。衝撃で鞭もちぎれました。
 とりあえず、経済的ではない奥義です。

 ダウンを奪った獄長はご機嫌でPRに勤しみました。なんでも蒙古の流れを汲む奥義だ
 そうです。牙大王も蒙古系でしたが、殴られるに任せていた大王に比べて獄長は技巧派です。
 
 困ったのは断頭台の囚人たち。早くケンシロウが立ち上がってくれないと処刑されてしま
 います。

 その頃囚人たちの叫びやギャラリーの歓声を聞いて、トキの看守はインタビューしてい
 ました。

 「ここで倒れるようならこの先あいつを待ち受けている恐怖には所詮勝てん」とトキは
 なかなかシビアな見方のようです。まあ次の敵があの方ですからね。

 
 「無謀な挑戦者のために犠牲にならねばならん」どうやら獄長は勝利を確信したようで、 
 囚人の命乞いを「聞こえんな〜」と得意の聞こえないふり。
 そんなあ!と囚人の叫びは「ん〜いい声だいい気分だ〜」と驚異の二枚舌ぶりを発揮し
 つつ、処刑執行を命じました。

 そして執行人が斧を振り上げた瞬間爆発し、第三ラウンドが始まりました。
 「言ったはずだ!墓に入るのはお前だ!」


 「ここまでだ…お前が築き上げたすべてのものカサンドラ伝説は今より消え失せる!」
 立ち上がったケンシロウですが、ダメージは濃厚のようでフラフラしています。  
 
 しかし勝利を確信したレイは、ケンシロウ用の墓穴を掘っている囚人たちに、
 「この墓にに入るのは獄長だ!このサイズでは入りきらん!」とサイドからの援護で
 獄長の集中力を削ぎます。

 この南斗挑発拳にやられてしまった獄長は怒ってケンシロウにブチかましを仕掛けますが、
 体を拘束していないのでムーンウォークで避けられてしまいました。もっと計画的に鞭を
 使っていれば…。

 ニョロニョロと逃げ回るケンシロウですが、ただ逃げているわけではありません。
 上手いことリードして出っ張った鉄骨にブチかまさせることに成功しました。相手の自滅
 を誘う頭脳的プレー!ちょっとセコいです。

 
 ところが残念ながら鉄骨の方がひしゃげてしまいました。蒙古の人は丈夫です。

 しかもケンシロウには初回の一発が尾を引いているようで、まだ足元がおぼつきません。
 ダメージ回復のためにアウトボクシングをしていたようですが、そんなケンシロウの
 作戦を見抜いた獄長はとんでもない手に出ました。

 獄長が合図した途端、ケンシロウの背後からトゲ付きの壁がせり出して来ました。どう
 いう状況を想定して作っておいたのでしょうか。
 
 逃げ道が断たれたケンシロウ、大ピンチか、と思いきや、
 「いいだろう、ではお遊びもここまでだ!」といつものへらず口で自分を鼓舞します。

 今回ケンシロウの秘策は六本の指、たった六本の指でウイグルボンバーを受けると予告
 しました。

 獄長はこれを挑発と見做し、怒りのアタック!北斗の拳完!と思いきや、予告通り六本の
 指で完全に獄長を止めました。

 獄長はなおも力押しで踏ん張りますが、ケンシロウは獄長の肩筋を引き裂きながら己の服も
 破る荒業で、二度とタックル出来なくしてしまいました。
 六本指の正体は北斗鋼裂把!挑発ではなく、タックルを封じる為の奥義だったのです。
 
 最大の武器を失い、勝負は決したかに思えましたが
 「カサンドラ伝説は不滅だ!貴様など俺の敵ではないわ!」と後半どこかで聞いたような
 セリフを吐き、最後の抵抗卍丸アタックを試みました。

 
 

 
 当然こんな小手先の技が通じるはずもなく、今までの鬱憤を晴らすかのような百裂拳で
 墓穴までふっ飛ばしました。

 墓穴のサイズは350kgの獄長には小さ過ぎた、多分レイの言うことなんか聞けるかよと
 穴掘り人達がさぼったせいだと思いますが、ケンシロウもそれを承知していたようで、
 体が折りたたまれる秘孔を突いておきました。

 おまけに「悪党に墓標はいらん!」と墓石まで破壊しました。獄長は墓石を用意してく
 れたのに、ひどい男です。予想以上に苦戦したのでムカついていたのでしょうか。



 ボスが倒れた!子分達はどうする!仇討ちだ!
 いつものモヒカン達なら蜘蛛の子を散らすように逃げていくのですが、カサンドラの看守
 たちは中々気合が入っていました。

 ところが「また墓標のない墓穴を増やすつもりか…」とケンシロウが嫌な脅しをかけるので
 信仰厚い看守たちは戦意を喪失してしまうのでした。

 
 「おい、マミヤ気付かないか…」
 「そう言えば聞こえないわ。風の音が…」

 鬼達の哭き声が、聞こえんな〜ということでカサンドラは解放されたのでした。


 歓喜に沸く凶悪犯ども。ライガとフウガもミツと熱い抱擁を交わします。
 ミツ「あの人のおかげなんだね」
 ライガorフウガ「うむ、そうだ。お前を見捨てようとした男だ!」

 ところで世界崩壊後にどうやってカサンドラを運営していたのでしょう。ウイグル獄長の
 ボランティアでしょうか。


 それじゃあトキの元までエスコートしてくれよ、とケンシロウはライガとフウガにお願い
 したその時、上から看守の死体が降って来ました。

 「け…拳王親衛隊!」

 

 二人が現れた瞬間会場は一気にお通夜ムードに。

 ライガフウガ
 「拳王とは世紀末覇者!その正体は誰も知らない!
 このカサンドラも奴に逆らったものを処刑するために作られた監獄の街!
 ウイグルすらこの監獄の番人に過ぎなかった!
 追っかけが来たということはついに拳王が本気で動き出したということか!」

 レイ
 「なにィ!とりあえずカサンドラにまつわる今までの設定はなかったことになるんだな!」

 一方、追っかけ二人が降伏勧告をするのでケンシロウは囚人の鎖を引きちぎって抗議しました。  

 この隙にライガフウガはトキを解放するため、ダッシュしていました。トキへの道は迷路に
 なっている上、道を塞がれたらアウトだからです。
 
 しかし追っかけ隊に回り込まれてしまった! 

 さあ、仕掛け岩が降りて来ました。ここを塞がれたらゲームオーバーなので、ライガフウガ
 は岩を支えることにしました。

 この漢達に対し、追っかけはトゲ付き棒でチクチクと突つきますが、二人が我慢するので
 勢い余ってとどめを刺してしまいました。


 ―ケンシロウ達が目にしたもの、それは絶命したまま岩を支える二人の姿でした。
 食いしばった歯と、壮絶に見開いた目。

 ケンシロウは二人の目を閉じさせると、拳王に死を!と涙を流すのでした。


  その頃残されたカサンドラの部下たちは、トキの噂で持ち切りでした。
 死の灰に侵された半病人なのに、ケンシロウに合わせることを恐れるのはなんでろう?
 なんて話していると後ろから獄長ゾンビが登場!絶対に、合わせちゃいけないあの二人!
 をろあ!とでかい引きを見せつつ昇天しました。

 
 一方ケンシロウ達は思ったほど迷路じゃなかったようで、トキの下へ向かっていました。
 ちなみにミツはいつの間にか消えていました。
 

 階段を上り、塔の内部に潜入したケンシロウに手裏剣が飛んできたので、とりあえず投げ
 返しました。

 カーテンの陰には親衛隊の二人がびっくりしていました。
 
 どきやがれ!とケンシロウが指示したところ、愚かにも親衛隊の一人ザルカ(インチキ臭い方)
 がサーベルを振りまわしてにじり寄って来ました。

 ケンシロウは蹴飛ばしてサーベルを奪い取りましたが、ザルカが奥の手を出しました。

 「首長盗刃術たっぷり味わうがいいわー!」
 どうやら無刀取りを出すようなので、じゃあ早く刀を取れよ、と差し出したところ、顔面を
 貫通させてしまいました。

 
 実力差を感じたもう一人の親衛隊泥棒ヒゲは、奥の手トキ殺しに向かいました。

 慌てて追うマミヤ、レイ、ケンシロウ(追いかけた順番)!
 牢の中にはトキが座禅を組んでいました。

 「この男は病気、しかも三カ月もこうやって座ったまま!足腰は萎えて立たぬわ!」
 トキにサーベルを突き付けるひげ!
 
 「いいだろうやってみろ!殺せ!」指示するケンシロウ!

 え?と耳を疑うヒゲでしたが、後には引けずトキの首をチクチクすることにしました。

 するとまたもやニセモノだったトキは演技放棄を申し入れますが、「我慢が肝心!」と
 違約金としてヒゲに命を支払わされました。その上ケンシロウからはダメ出しされました。

 しかし「すでに別働隊がトキを連れ出したぜ」とヒゲが言うので、ケンシロウは家に帰ろ
 うとしました。

 そこでチャンス到来!とヒゲが振りかぶったところ、演技の見本を見せたケンシロウによって
 トキの居場所を吐かせる秘孔を突かれてしまいました。

 「トキの居場所を吐いちまった!拳王に殺される!」と怯えるひげ。

 「心配するな!」なんとケンシロウはヒゲを助けようというのか、ということは勿論なく、
 「お前はもう死んでいる!」とオチをつけたのでした。

 
 さて、今度こそ本物のトキの房です。
 親衛隊CとDはトキを移送しようとしますが、その時壁をぶち破ってケンシロウが現れ
 そうになったので、最後の手段トキ殺しに出ました。

 
 壁の向こうから現れた三人が見たもの、それは親衛隊のサーベルを白刃取りするトキでした。
 白衣、白髪、不精ヒゲ、その神々しさはまるで聖人のようです。
 
 CとDはなんとかしてトキを殺そうと頑張っているので、ケンシロウも
 「やってみるがいい!」と応援することにしました。

 そこで繰り出されたトキの必殺技、北斗有情拳!
 これは最高にいい気持ちで体が爆発するという慈悲深いんだか深くないんだかわからない
 奥義なのです。
 どれくらい気持ちいいかというと…


 
 死ぬほど


 
 「ケンシロウ」
 「兄さん」
 立ち上がったトキはケンシロウの肩に手を置きました。
 
 (す…すごい。これがトキという男。そしてこれが北斗神拳…拳王とやらがこの二人の
 再会を恐れていた理由がわかった)

 それは本当かレイ!はともかく、トキは懐かしそうにケンシロウに微笑みます。

 「痩せたなトキ」
 「太ってたらおかしいだろ。この状況で」

 なんて北斗漫才をひとくさりやったのが良くなかったのか、トキは吐血してしまいます。
 この体では旅を続けることが出来ないので、あえて囚われの身になってケンシロウを
 待っていたのです。

 トキは何やら見せたいものがあると言って、カサンドラツアコンに変身しました。


 そこは強烈な血の臭いのする廊下でした。

 血はすべてここで殺された武道家達の跡。
 拳王は己の力をより強大にする為、あらゆる拳法、武道の達人を集め、その極意を
 奪おうとしたのです。要するにアミバと同じです。
 
 カサンドラ真の恐怖とはこの廊下でした。

 トキが語り始めます。

 
 ―カサンドラ真の恐怖、それはこの場だった…。

 かつて家族もろとも人質に取られた武道家がいました。
 武道家は極意を伝授したら、家族の命を助けてくれるという拳王の言葉を信じ、極意の
 巻物を拳王に渡します。
 拳王は一目見ただけで、了解!と習得してしまいました。

 契約通り解放を要求した武道家でしたが、
 「この拳法の伝承者はこの世で二人いらん、しかし命だけは助ける約束だ」と言って、
 武道家と母、赤子は別々の檻に閉じ込めることを命じました。
 母は乳が出ず、閉じ込められることは死を意味しましたが、拳王は…
 
「子を放つことは俺に対する恨みを放つことになる、どんな小さな禍根も断つ!」
 
 別々の牢獄に閉じ込められた家族は毎日互いの名を呼び合って、互いの生死を確認しました。
 ―そしてある日、夫の呼ぶ声に妻が応えなくなり、男も絶望と悲しみのうちに死んでいきました。

 そんなことを何百人と繰り返して来た。
 その叫び声がやがて鬼の哭く街カサンドラを生むことになったのです。

 「その凄惨な悲劇がこの血の数だけ…そしてマミヤのカサンドラ設定は一体何処へ」
 レイも感慨深げです。

 さらにジャギもアミバも拳王の命令で動いだけ、とトキは断言します。
 いや、あの二人はどう見てもプライベートだったよ。

 「アミバの発見した新秘孔もすべて拳王へ伝えられた!拳王の前に人はなく、拳王の後にも
 人はない!人間は己一人!それが世紀末覇者拳王の狂気の野望!」

 とんでもなく孤独な道を行く拳王!



  ・・・
 


 「そして拳王はラオウ!」
 なんと、ケンシロウは拳王の正体を見抜いていました。

 「俺にはまだ鬼の哭き声が、聞こえる…」
 
 「この哭き声を止めることが出来る男は、ただ一人…お前だ!」
 トキがドラフト指名したことで、再び兄弟喧嘩の幕が開いたのでした。


 カサンドラ編 終